「難しい顔してますね。もしかして私が孤児院にいた事に関してですか?」
「エスパーかお前は?」
「だってさっきのやり取りで疑問に思う事と言ったらそれくらいじゃないですか」
「そうか?」
「私が生まれた時にはもうお父さんはいませんでした。そしてお母さんも私が七つの時に逝ってしまったんです。踊りの基本はお母さんから後は独学ですよ」
独学と訊いて驚嘆する。
あれが独学か、天才と言うものは存外埋もれているものだなと。
「良い母親だったんだな」
「はい。一緒に過ごした記憶は少ないですがお母さんのことは大好きでした」
でした。は過去形。
既にいない者をこれだけ敬える感覚は解らない。
自分の母親が逝ってしまった時は「随分と呆気なかった」としか思わなかった。
少女の瞳を見る限り、本当に母親が大好きだったんだなと思う。
きっとその分、悲しみも大きかっただろうが。

