本当は羽鳥さんの誘いに乗って二人で何処か遠くへ逃げたかった。
しかしそれは私が羽鳥さんの今まで培ってきた物を全て失わせると言う事。
それだけは絶対にしたくない。
大切な人の未来を消さない為に私は彼の誘いを断った。
羽鳥さんと別れてどれだけ時間が経っただろう。
ぼーっとしているのも些か飽きてきた。もうそろそろ起床時間だろうか。
そんな事を考えているとコツンと地面を踏みしめる音が聴こえた。
誰かが近付いて来ている。
「羽鳥、さん?」
目の前の人物を目にして呆気に取られた。
だってこんな朝早くから羽鳥さんに逢ったのは初めてだったから。
「ああ、ちゃんと起きているな。よく眠れたか?」
「え、あ……はい」
咄嗟に嘘を付いてしまった。
羽鳥さんを心配させないように本能的にその嘘は口から出てきた。

