ゆっくりと瞳を閉じる。
とても長い一日だった。
死神はゆっくりとそして確実に舞歌に忍び寄っている。
舞歌の人生に幕が降ろされた時、私の世界の全てが消えると言う事だ。
やれる事はやったつもり。
だけど舞歌が生きていてさえくれれば、まだまだしてあげたい事は沢山あったはず。
人の死に対してこれほど感情を揺さぶられたことは初めてだ。
この十年間、看守という仕事に就いて何十人もの死を見てきた。
死の迫った者の様々な姿を見てきた。恐怖に戦く者。
終焉が迫り、狂う者。
しかし舞歌の様に死を見詰め笑っていた者などいない。
どうしてあいつは死を前にしても尚、笑っていられるのだろうか?
死が怖くない?そんな人間、到底いるとは思えない。
絶望に立たされ、死以外の道が残されていない人生があったとしてもその人間は終わりを恐怖するはずだ。
舞歌が心から笑っていてくれるのならば全然構わない。
しかし、それが無理をして作った笑顔ならばそれは何と悲しい事だろう。
煙草に火付ける。
仕事まで少し時間があるな。
舞歌はもう起きているだろうか。様子を見に行ってみるか。

