しかし感情の起伏が乏しいのには理由があった。


私はその時の感情をどう表に出して良いのか解らないのだ。


それは幼き頃の記憶。


実の母から愛情ではなく虐待を注がれて育てられた日々。


子供の時は何故、自分が殴られているのかが解らなかった。


泣けば五月蝿いと言われ殴られたし、笑えば生意気だと言われて殴られた。


児童保護施設に預けられそうになった時もあったがそれは私自身が拒んだ。


虐待されていても母の事はそれほど嫌いではなかったし、虐待について調べた本によると自分より不幸な子供は沢山いる事を知っていたから。


ガスコンロで腕を焼かれた子供もいるし、二日に一度しか食事をとらせてもらえなかった子供もいる。


それに比べれば母のヒステリーで殴られるくらいなんて事はなかった。


辛くなかったと言えば嘘になるが中学校入学を境に母のヒステリーも自然になくなっていった。


母は子供に虐待していたとはいえ親としての義務はきちんと果たしていたし、こうして真っ当な職に就けている。


だから私は感情表現の欠落と言う代償を負ったが別に母を恨んでいるわけではなかった。