「会社が倒産…?
冗談はやめてよ……」

「冗談じゃないんだよ
会社は潰れた
俺の人生は終わりだ」


高校三年生の夏。
父の会社が倒産した。


「姉ちゃんバイト探してるん?
いいとこ知ってるでぇ」

駅前のベンチで携帯を聞いていると金色の髪の毛の
明らかに怪しげな飄々とした男が話し掛けてきた。
男はエセ関西弁で話し掛ける。
「結構です。」

丁重に断りを入れたがしつこい。
男の耳にはたくさんのピアス。

「話聞くだけでいいねん」
あたしは腕を掴まれる。

「マジ勘弁…!!」

あたしは腕を振りほどくが離れない。

「大人しくしぃや
悪いようにはせーへん」

――父さん。
あたしは別に父さんの事、恨んだりしてないよ。

男手ひとつで育ててくれた。
中々遊んだりする事は出来なかったけど、あたしは父さんが大好き。

病気で無くなったお母さん。
どうか父さんが元の父さんに戻る事を願っていてください。


「姉ちゃん。名前は?」

「…春川美麓。」
あたしは駅からざっと10分くらいたって
小綺麗な建築物の建つ路地裏に連れていかれた。

「珍しい名前やんな
俺は宮森大和よろしゅうな」

「で、何の仕事なわけ
大和くん。
キャバクラとか勘弁だかんね」
怪しげな人では無いということが徐々に分かってきた。

「そんないかがわしいもんちゃうて
香水の広告モデルや」

今こいつなんて言った?
モデル?あたしが?

「大和。どこに行ってた…」
鼠色の錆びれたドアから一人の長身の男が出てきた。
その男は
黒い髪に黒目の大きなグレーの掛かった黒い瞳。

あたしはその端麗な容姿に釘付けになる。

「モデルさんを探しに行ってたんや堪忍な藍。」

「……」
ランと呼ばれた男はあたしの顔をじっと見つめる。
あたしはその男の変な行動に眉を潜める。

「お前名前は?」
男は黒いスーツの内ポケットから煙草をだして火を付ける。

「春川美麓。」

「春川。時間がない。
急げ。
大和っぼさっとしてねぇでカメラマン呼んでこい」

あたしは男に腕を掴まれて鼠色のドアの中に連れていかれた。