蝉時雨








あれからどれくらいの間
ぼーっとしていたんだろう。




「‥‥な?‥おい、菜々」

自分の名前を呼ぶ声に気づいて
はっと顔をあげる。







「‥‥‥京‥介」

「お前こんなとこで何してんの?」

その場を動かずに
ただ突っ立っているだけの私の顔を
京介が不思議そうに覗きこんだ。






「あ‥‥えっと、
涼ちゃんに会いにきた‥‥んだけど」




窮屈で仕方のない浴衣のまま
ここに来た目的は涼ちゃんに会うためだ。
だけど、今日は会えそうにない。

会いたいけど、 二人を目の前にしてちゃんと笑える自信はない 。