蝉時雨




「いいじゃない、鳴き声くらい。
蝉は地上に出たら7日間しか
生きられないんだから」

「え、そうなの?」

「そうよ~。
だからああやって
必死にメスを呼んでるんじゃないの」

「ふーん‥‥」

帯を巻くのに邪魔にならないように
袖をあげながら、一度外した視線を
また桜の木に戻す。






蝉ってなんだか私みたいだ。
涼ちゃんに選んでほしくて
こっちを向いてほしくて必死にもがいてる。
精一杯鳴けば、菜々子のこの想いも
涼ちゃんに届くのかな。

でも涼ちゃんからしてみれば
菜々子は蝉みたいに
煩いだけなのかもしれない。







「‥‥はい、できた。
ちょくちょく自分で着崩れ直しなさいね」

「ありがとう、ママ」

動きずらいのと窮屈なのは
やっぱり苦手だけど、
久しぶりに着る浴衣に気分があがる。




「絆創膏も持っていきなさい。
靴擦れしちゃうかもしれないから」

「はーい」

ママから受け取った絆創膏を巾着にしまい、
鏡でもう一度全身をチェックしてから、
優花達との待ち合わせの場所へ向かった。


日もすっかり落ちて、生温い風が頬をなでる。