蝉時雨






昼過ぎににわか雨が降った。
祭りが中止になるかもと
心配したけどけど、
夕方にはすっかり止んで
からっと晴れた空が覗いた。

雨に降られて静かだった蝉が
また騒々しく鳴き始める。
照りつける太陽に湿気が加わって、
暑さがさらにじめじめとした熱を帯びる。


暑さにも圧迫感にも
とうとう耐えきれなくなって
着付けの途中で声をあげた。




「うあーー!!!」

「こら、菜々子!!
じっとしてなさい」

さっきよりも更にきつく締められた
仮紐の圧迫に、うっと息を詰まらせる。




「これだから着物とか浴衣って苦手」

「だったら着ていかなければいいじゃない。
窮屈なのが嫌だからってここ数年、
浴衣なんて着たがらなかったのに」

「今日は特別なの!」

「どうせ原因は涼ちゃんでしょ。
よしっ、こんなもんでいいでしょ」

仮紐がきゅっと音をたてて結び目をつくる。
その圧迫にまた、うぇっと声を漏らした。




「まだ帯も巻くんだから
このくらいで騒いでどうするのよ」

「だって暑いし!蝉うるさい!」

ただでさえ蒸し暑いのに、
蝉のせいで余計に暑く感じる。



「涼ちゃんにみせるんでしょ?
我慢しなさい」

「でもね、絶対この間から桜の木に一匹
うるさいのがいるんだよ」

そう言って、一際うるさい鳴き声の聞こえる
庭先の桜の木に視線を向けた。