蝉時雨



それからすぐに涼ちゃん家を後にした。

別に急いで帰る必要なんてないのに
すっかりあがりきったテンションのせいで
自然に足が動く。


家に着くまでの間さえ待ちきれなくて
携帯を取出しママに電話をかけた。

響く呼出し音さえもどかしい。





『はいはい、どうし‥‥』

「ママ!!浴衣出してて!!」

『えぇ、浴衣?』

「うん!!菜々子のお気に入りの
薔薇のやつ!!」

『ああ、あの白地にピンクのね。
でもいきなりどうしたのよ』

「今日お祭りに着ていくの!!
じゃあ準備お願いね!!」

用件だけ伝えると、
ママの返事も聞かずに電話を切り
家までの距離を駆け出した。

嬉しさとわくわくで走り出した足は
更に動きを速めていく。







浮かぶのは涼ちゃんの嬉しそうな笑顔。
今日はとびっきり可愛くしていかなきゃ。