蝉時雨




「バッグと靴これでよかったかなぁ。
ママ、変なとこない?大丈夫?」


「大丈夫大丈夫。
かわいいかわいい」


ママは視線を向けることなく、
代わりにあしらうような空返事が返ってきた。





「もーっ!!
真面目に答えてよね」



ワンピースの裾を ひらひらさせてみたり
鏡に映る角度を変えてみたり、
一度気になるときりがない。







「あぁ、そうだ。菜々子。
佐藤のおばさんのとこにも
寄っていってよ」


「ええ?
帰ってきてからじゃだめ?」


「別にいいけど……
京ちゃんとこに行くまでの
通り道だし、先に寄ったら?」


「そんなことしてたら
私が着く前に
もう帰ってきちゃう」



「大丈夫よ、だか…」


「帰りに寄るね!
じゃあ行ってきまーす!!!






ママの言葉を遮って
急ぎ足で玄関を出る。


その瞬間、
むわっとする暑さと
忙しい蝉の鳴き声に包まれた。