蝉時雨




左腕に残った温もりを感じながら、
立ちすくんで動かない私の右腕を
京介が掴んで、促すように前に引いた。



「ほら、行くぞ」

「うん‥‥」

そう言って手を離した京介の後について
涼ちゃんが駆けて行った方に向かう。




絶対負けないなんて意気込んでいたけど、
すっかり気分は堕ちてしまって
下を向いてとぼとぼ歩く。






「菜々、下向いてると
目ごとまつげ落ちるぞ」

「‥‥はあ?落ちないもん!
そんなんだから成績悪いんだよ。
ばか京介っ」

「うるせー、あほ菜々子」





全くこの男にデリカシーってやつは
ないのかしら。

京介のせいで、しんみりとした空気も
どっかに飛んでいっちゃって
前を歩く京介の背中を思いっきり睨み付けた。





京介の背中の先には
大きな荷物を受け取っている涼ちゃんの姿。

肝心の圭織の姿は
うまく涼ちゃんの背中と被ってしまっていて
まだよくわからない。