蝉時雨




「―‥‥‥っ!!!」




言い出したのは自分だとはいえ
いざキスするとなると
そんなに急に心の準備なんてできるはずもなく
京介と向き合った顔を思いっきり左に背けた。

後ろに下がって距離をとろうとするけど
ブランコの鎖をがっちり掴まれて動けない。








「‥‥‥おい、菜々子」

「‥‥なっ‥何!?」



私の目と鼻のすぐ先には
ブランコを掴む京介の右手。
視界の端にうつる京介が
眉間に皺を寄せている。






「お前、ふざけてんの?」

「ふっ、ふざけてないよっ!!」

「じゃあこっち向け」

「無理っ!!」

「‥‥‥おい、こら」

「だって!!顔近いんだもん!!」

恥ずかしさと緊張とでつい声を荒げる。



変に身構えてしまって、いつもなら
どんなに近くにいても気にならないのに
今はまともに京介の顔が見れない。