蝉時雨




必死な私を京介が
複雑な表情を浮かべながら見つめる。



そしてしばらく考え込んだ後で、
「‥‥あ~‥‥ったく!!わかったよ!!」
と観念したように言うと
大きなため息をつきながら
がしがしと頭を掻いた 。





「えっ?!」

「えっ、じゃねーよ。
キスすりゃーいいんだろうが」

開き直ったのか、
京介の顔にはさっきまでの
考え込んでいる表情はなくて
いつものポーカーフェイスを浮かべている。








「ほんとに?!いいの?!」

「はぁ?お前がしたいって言ったんだろうが」

自分から懇願しておきながら、
驚きで何度も聞き返す私に
京介は呆れたように眉を寄せた。






「そうだけど!!だけどさ‥」

「めんどくせーな。
するの?しないの?」

「‥‥‥っするよ!!する!!!」

「うん。じゃあ決定」




そう言って焦る私のことなんか気にも留めず
京介は涼しい顔で話を進めると、
腰掛けていた柵から
気だるそうに立ち上がった。