僕はいつも、毎日真面目に学校に通っている。
なぜなどと疑問も持たない。
ありきたりな学生生活を送り、ありきたりな高校へ行き、社会人となってただ歯車のように働く。
どうしたいなんて考えちゃいけない。
考えれば考えるほど疑問がわきむなしくなる。
だから考えない。

僕は特別じゃない。
何も。
運動も勉強もどれもぱっとしない。
だから自分に何も期待しない。

恋もしない。
僕なんてつまらないし友達も少ないし、女子と何話せばいいかもわからない。

今日も普通に友達と別れ家路につく。
何も変わらない日常にポツンと君がいた。
君の第一印象を聞かれたら明確に答えられる。
「透明な女の子…?」
いつも通る通学路には大きな栗の木がでんっと生えている。
今は冬だから葉が全部落ちてしまっているが、夏は覆い繁る葉っぱから時々でっかい毛虫が落ちてきたり、秋になるといがぐりが降ってきたりしてそれなりにキケンだ。
その栗の木の見事な枝にちょこんと女の子が座っていた。
断じて人間ではない。
透明な人間がいたら僕はこれから何を信じればいい?
透明と言っても輪郭がはっきりしていて向こうが透けて見えるというだけ。
顔もここからではわかりにくいがかわいいと思う。
…多分。
(ゆ、幽霊…かな)
バカなことを考えてしまう。
幽霊なんているわけない。
この子出会う3秒前まで信じて疑わなかったことがあっさり覆った。
話しかけようか。
一瞬迷った。
話しかけたら…僕の世界観は一気に変わってしまう。
そんな恐怖に勝てなかったのだ。
僕は無視して栗の木を通り過ぎた。
一週間が過ぎた。
彼女は相変わらずあの木の上にいる。
ずっとどこか遠くを見ている。
一体何が見えているのだろう。
一月が過ぎた。
もう3月も終わろうとしているのにまだ桜も咲く気配がない。
去年だったらとっくに五分咲きくらいにはなっていたのに。