深い深い狩人さえ訪れぬ森の奥。
 一人の少女が座り込み、涙を落としています。
 落ちる涙の先には一人の少年が瞼を閉じ、横たわっています。まるで彫刻のように白く美しい少年です。その小さな唇は、薄い微笑みのまま凍てついています。
 少年が倒れ、少女が泣いている訳は二人だけにしかわかりません。
 悲しみの理由を問えぬほど、少女の声は悲痛なのです。
 陽が落ち、満月が木々の間から覗き始めても、少女は泣き止みません。
 ザザザ、ザザザ。
 夜風が枝を揺らし、葉を歌わせます。
 しかし、少女には安らぎを覚える月光も、不安を覚える木の葉の声も届きません。
 少女は泣き続けます。
 そのうち、涙は枯れ、黒く大きな瞳からは一滴の潤いさえなくなりました。
 次には声が乾き、少年の名を呼ぶこともできなくなりました。
 震えていた細い肩も少しずつ落ちていき、ついには動かなくなりました。
 悲しみを表すことを失った少女。
 それでも少女は、確かに、泣き続けていました。
 浮ぶ月はいつしか白光の曲刀を象っています。
 少女は落ちる木の葉のように少年に重なっていきました。
 誰に知られることなく、森へと変わっていく二人の子供。
 月は何も言わず、少年も少女も周りの木々や土壌と変わりなく照らします。
 冷たく、そして、やわらかく。