この腕の中に戻った唯一無二のものを決して離さない。
ひかるの姿を探し焦り苦しんだ刻が、胸からさらさらと溢れ落ちていく。
―――もう何もいらない。
ひかるがいてくれるなら―――
「榊さん、わたし…」
「いいんですよ。帰りましょう」
何も言わなくていい。
ひかるが戻ってきただけで。何も言うことはない。
「後は、榊原頼みます」
ゆっくりと振り返り榊原をみる。
榊原が切れたくちびるを拭い微かに笑った。
「まかせろ」
「おい。榊原、何を血迷ってるんだ?」
ヒグマのように大きな男ふたりが数人の若衆を引き連れ、目の前に現れて低い声で唸った。
「親父…」
「何を勝手なことをしてる。榊原、可愛い嫁を逃がすな」
「親父、だからそれは!」
違う!と、言いかけてヒグマのふたりは睨み合いを始めた。
「彼女は違う」
「何が違うんだ?」
「彼女には…ひかるさんには、強引に頼んで恋人のフリをしてもらってただけで」



