「りおさんと言う名なんですね?」

「はい」

「わかりました」



若も何を思ったのかビクッと肩を揺らす。



気づかれてはいけない。
気づかれてはいけない。


妹と同じ名前に動揺をしてはいけない。

自分に言い聞かせる。




車は成田が待っている病院へと滑り込む。


ドアを開けると若は彼女を抱きかかえたまま休診の札の掛かった診察室の奥へと突き進んでいく。

その後を自分が続く。


一也が自分を呼び止めていることも知らずに足は勝手に若の後を追っていた。


「榊さん、どうしたんですか?」


二度目に呼び止められてハッと我に返って立ち止まる。

「顔色が悪いですよ」

「…そうか?」

「若なら怪我もないようですし、榊さんが心配することもないですよ」

「………」


奥の診察室の方からは若が入って行ってから何の物音も聞こえない。


「どうしたんですか?榊さんなんか変ですよ?」

「なんでもない」

「何でもなくないじゃないですか。顔が真っ青です。少し休んでた方が」

「何でもないって言ってるだろ!」

「!」

思わず叫んでしまってからどんなに自分がひどい顔をしていたかわかった。

ガラスに反射して映った自分の顔がひどく異様な顔をしていた。


「悪い、少し外に出る」


言い捨てて、消毒薬の匂いのしない外へと逃げた。