黒い羽根


「マリアはルシフェルがもう手に負えないと私に押し付け……いえ、失礼。悪魔庁から追放処分をうけて天使庁見習いからやり直しということで今回の件は不問になりました。まあ、今回は恋愛がらみとは事情が違って、半分とはいえ確かに血の繋がった親子の事情ということもありますからね」

 ミカエル様は僕とマリアさんに交互に視線を走らせ、

「どのみち見習のうちはたいした魔力もありませんし、勿論、厳重な監視下に置かれることになりますがね」

 そして一言そう付け加えて、もう一度マリアさんをチラ、と牽制するように見ると、再び僕の方を向き、少し気の毒そうな表情を浮かべた。

「元々、君の寿命が短くなっていたのは羽根を埋められたことにも起因しています。悪意を沢山聞いたでしょう? それによって君の魂は弱り、自然と呼び寄せ易くなった事故によって終わる予定でした。」

「そう……だったんですか」

 ミカエル様の言葉になるほど、と思い当たることがあった。

 実際僕は弱りきっていたと思う。

 特に最近は……死にたいと、いつ死んでもかまわないと思うほどに。

 そしてマリアさんは今日さえ乗り切ればと言った。

 つまりは今日。

 僕を襲った数々の災難は、僕自身が呼び寄せたものだったのだ。

 そして、僕が気付かなかっただけで。

 災難から徹底的な打撃を回避出来ていたのは、偶然だったわけではなく。

 実はこっそりマリアさんが残り少ない魔力を使って助けてくれた結果だったのではないだろうか?