黒い羽根



 僕は慌ててミカエル様と呼ばれた天使へ向き直った。

「マリアさんを……母さんを、消さないでくださいっ」

 咄嗟にでたのは、なんのひねりもない一言。

 だけど他になんと言えばわからなくて……。

 僕は。

「僕の……僕の母さんを……消さないでっ」

 ただ子供のように何度もそれを繰り返す。

 自分でもよく分からない、だけど押さえきれない気持ちが溢れて止まらない。

「智彦……?」

 驚いたようなマリアさんの声が聞こえて、それが余計に気持ちをかき乱して……僕は意味も分からず一生懸命天使に頼み込む。
 
 そんな僕をしばらく見ていたミカエル様が、

「……違いますよ」

 呆れたような長い溜息とともにそう言って苦笑した。

「「え?」」

 思わずはもる僕とマリアさん。

 きょとん、とした僕らの顔を見て……ミカエル様は今度は小さく吹きだした。

「なんて顔をしているんですか。違いますよ、処分に来たわけじゃありません……ルシフェルから伝言ですマリア」