黒い羽根



「智彦」

 不意に、頬にひやりとした感触。

 白い手が僕の頬に残っていた涙の跡を撫でていた。

「なんで泣いた?」

 灰色になってしまった髪や翼とは違い、未だ艶を失わない黒い瞳が僕の目を覗き込む。

「え……」

 言葉につまった僕に、何も言わなくてもわかるんだとでもいうように、したり顔でニヤリと唇の両端を上げ。

「ねえ……智彦。生きてくのもそう悪いもんじゃないさ……」

 マリアさんが言う。

 そして僕の首に細い両腕を巻きつけて僕の肩に顔をうずめ。

「……死なせるわけないだろう? 大事な息子をさ」

 ――その一言。

 僕には、なんとなくわかってしまった。

 何故マリアさんが今此処に居るのか。