黒い羽根



 ……結局のところ。

 僕の寿命はマリアさんに会ってそうたたないうちに、こんな突然にやってきてしまったから、たいして出来ることなんてなかったかもしれないけれど。

 でも、少しくらいは誰かに、何か伝えられたはずで……。

 そしたら、きっと。 

 僕がいなくなっても、少しは誰かの気持ちに、記憶に、少しの足跡くらいつけられたかもしれない。

 でも……もう遅い。

 僕は行かなきゃいけない。

 僕という存在の、ほんのちっぽけな気持ち一つ誰にも残せずに。

 素直な……『ありがとう』の一言も残せずに――










   
   +++

 頬を暖かい水のようなものが伝っているのを感じた。

『……泣いているのか……僕は……』