黒い羽根




『いやだ!! 死なないで!!』

 僕の耳に、飛び込んできた小百合さんの声。

 同時に視界がぐにゃりと歪む。

 歪んだ視界はそのまま渦を描くようにぐるぐると廻りだし……横たわる地面もいつのまにか存在を無くし、ぼくはその渦に巻き込まれていく。

 それと共に……。

『どうして気付かないのかしら? 心配してきたのに……私の気持ち分かってるの? ねえ、本当に体、大丈夫なの?』

 つい今さっき見た、ドアの前で顔をこわばらせた小百合さん。

『大丈夫かしらねえ……真面目ないい子なのに……騙されたりしてやしないかねえ?』

 ほんのしばらく前に見た、お釣りを僕に差し出す八百屋のおばさんの笑顔。




 今日見たばかりの映像と一緒に聞こえてくる、聞き覚えのない言葉。




 そんな言葉、小百合さんが口にしただろうか?
 八百屋のおばさんは言っただろうか?
 
 それを皮切りに、ぐるぐると廻る視界の中に次々と、フラッシュバックのように今まで見た風景が映し出されていく。