普段の生活の中意識して耳を澄ませば、いつだって何かは聞こえてくるはずの様々な雑音も耳に届いてこない。

 音すらも失った空間。

 そんな中、マリアさんだけが、独り動きを見せる。

 広げた翼をゆっくり畳みながら僕の傍らに身を屈め、僕の胸元へと視線を定めた。

 はじめて見る、その真剣な表情につられるように僕も自分の胸元を見やる。

『……あ…………』

 僕の胸のあたりに、黒い光が淡く円を描くように広がっている。

 じっと見ていると、その光がだんだんと濃さを増し、球形へと膨れ上がっていき、それが、ドーム状になってきた時点でその中心にあるものの姿が見えてきた。

『これ……が……?』