僕に目線は合わせず、小百合さんはクルリと踵を返して、アパートの階段の方へと急ぎ足で去っていく。
「や、ちょっ……店長」
誤解だ。
多分完全に何か誤解している。
残された言葉に追い討ちをかけられたような気分になって、呼び止めようと声をかけるが、店長は振り向かない。
「ふ~ん……あれって、もしかしてさあ~」
なにやら楽しげな声で言おうとするマリアさんの声は今は無視だ。
その腕から頭をくぐらせ抜け出て、ついてこようとするマリアさんを半ば押し込めるようにドアを閉めて、小百合さんの後を追い、階段へ向かって走る。
すぐに下り階段にたどり着き、見おろすと、まだ階段の途中を降りかけの小百合さんの頭が見えた。
ほっとして、階段に足をかけた瞬間――
『え……?』
足元に感じた違和感。
目の前の風景がぐらりと揺れる。

