黒い羽根




 ピンポーン。



 不意に鳴った安っぽいチャイムの音に、僕はドアの方をふりかえった。

「お客さん? 誰誰?」

 同じくチャイムの音に反応したマリアさんが足をばたつかせるのをやめる。

 その顔がすぐさま好奇心満々の表情に変わり、すっくと立ち上がると部屋から玄関に向かおうとしている。

 慌てて止めようと、僕は持っていたトマトの切れ端をレタスの上に放りなげ、競うように玄関へ向かった。

「マリアさんは出なくていいし!!」

「なんで~?」

 誰が来たか検討もつかなかったが、とりあえずマリアさんが出るのはまずい気がした。

 だって部屋に戻ったマリアさんはまたキャミソール一枚でくつろいでいて、その格好のまま出ようとしている。

 確率としては大家さんの可能性が大。

 騒がしいと苦情がきて見に来たのか。

 もし違ったとしても、近所の人なんかだった日には後から何を言われるやら……。

 まあ、後のことといっても、もうほんの僅かな期間しか僕に残された時間はないらしいのだけど。

 それでも少しでも面倒は避けておきたい。