黒い羽根


 服が泥まみれなのはその時のもの。いずれも寸前で……。

 たまたま足元の空き缶を拾おうとしたり、目の前を横切った鳥に驚いて足を止めたり、
つまずいて転んだり。

 ……そんなこんなで直撃は避けていたものの。
 
 通常だったらおよそ一日にこんなに災難にあうことなど一生に一日あるかどうか、と思わずにいられないほどに立て続けに起こる事故一歩手前の現象に、部屋に辿り着く頃にはすっかり僕の神経は磨り減り、疲れ果ててしまっていた。

「いやあ~なかなかスリリングだったねえ」

 ケタケタと笑いながらマリアさんが言うには、寿命が近くなると、色々な災厄を自然と呼び寄せやすくなるらしい。

 身に降りかかる災難が、本能的に本人に死への心構えを身体に覚えさせるとかなんとか、そういう意味合いもあるらしいが……。

 そんな神様の思いやりだかなんだかわからない事情なんて、知ったことじゃない僕にとっては迷惑な話。