「な~にこれくらいで動揺してんの? ……もしかして……あんた、免疫なし?」
「……関係……ないっ」
クスクスと笑いをもらし小刻みに震わす細い肩に手をかけ、ぐいっと自分の体から引き離そうと押しやる。
引き離す間際に揺れた黒髪からなにか甘い匂いが鼻先をかすめて、尚更心拍数が跳ね上がった。
「け~ち。自分の息子に頬擦りして何でこんな仕打ち~?」
「いい年した息子に頬擦りする母親なんていませんからっ」
わけのわからない事を言いながら口を尖らすマリアさんから、じりじりと後ろに下がり距離をとりながら言い返すと。
「え~? そんなもん~?」
呑気にけらけらと笑い始める。
思いっきり脱力しながら、少し距離をおいたマリアさんに改めて視線を戻す。
黒い二枚の翼を背負い、笑い声を立てる彼女は……確かに目の前にいて。
これは夢でも何でもなく現実なのだと信じざるを得ず。
「はぁ……」
深いため息が漏れた。
それに気付いたマリアさんが、はた、と笑うのをやめて何かを思い出したかのように人差し指をピンと立てた。
「そうそう、それなのよ! それに用があってきたのよ~」
にぃと吊り上げられた真っ赤な唇から零れる。
「朗報よぉ……智彦」
語尾に音符でもつきそうな声。

