黒い羽根



 ひらひらと、落ちていくそれを追うこともできず。僕は目の前の光景に釘付けになってしまった。

 白い肩に頼りなげにかかる、細いキャミソールの紐。

 黒いシルクのキャミソールの大きく開いた背中から、まるで生えるように……いや、実際に生えているのだ。

 マリアさんの白い背中に、着ているキャミソールの光沢にも劣らない、艶やかな輝きをもった大きな、二つの黒い翼が。

「驚いた? そりゃあ驚くよね~!! あんたのママに翼があるなんてね~?」

 ――いや、母親ってのは冗談じゃないのか?

「ママはね~」

 ――物凄く楽しそうなのは気のせいか?

 まるで歌でも歌うかのように、はずんだ声でマリアさんが続ける。

「悪魔なんだよ」

 ――はい?

 硬直した僕の視界の中で、ニヤリ、と笑みを浮かべる真っ赤な唇。それを目にしたのを最後に……。

 僕の思考は完全にブラックアウトした。







   +++



 ――三十分後 しばらく放心状態だったのがようやく溶けた僕。

 当然だ。全てがたちの悪い冗談か夢のような話。

 ……いや、そうであって欲しい。