一瞬目をぱちくりとさせた後、今度はおどけたようにペロリと舌をだしてみせた。
全く悪いと思っているようには見えない。
そんなマリアさんの後ろには、先ほどまでマリアさんがうっとりと眺めていた父さんの遺影が仏壇のなかからこっちを見ている。
写真のなかで豪快に笑う父。お世辞にもりっぱな人間ではなかった。
職も長く続かず、博打好きで、喧嘩っぱやくて……。
好きな酒がたたって肝臓を悪くして死んだ父。
だけど、僕には優しくて――
そういえば、父が生きている間はまだ気持ちが落ち着いていたように思う。
少なくとも、今ほど生きることに無気力ではなかった。
他の人には聞こえない、僕だけに聞こえる悪意に一日さらされても、家に帰り、父の顔を見ればどこか安心できた。
心が読める僕を気味悪がることもなく、男手一つでずっと面倒見てくれた父。
そう、男手一つで………………。

