心の声がなくとも。目に見えるもので伝わる気持ちもある。
あの後僕には、マリアさんが言っていたのとは少し違う現象が起きていた。
黒い羽根の属性は、どうやら白い羽根と相殺されたらしく……僕はあの日以来、誰の心も読むことが出来なくなっていた。
悪意を呼び込む黒い羽根と反対の属性を持つ、白い羽根が呼ぶ善意を見たかった気もするが、結果この状態が一番いいんだと思う。
今の僕は、ある意味。
羽根を持っていた頃より、随分色んな気持ちを感じれるようになった気がする。
僕に声をかけてくれる人たちの言葉を素直に受け止めることが出来る。
僕に向けられた表情を、純粋に信じられるようになったと思う。
『ねえ……智彦。生きてくのもそう悪いもんじゃないさ……』
あの時、マリアさんが言った言葉を、僕は今噛み締めている。
世界は僕が思ってたよりずっと僕に優しくて、僕がただそれを知ろうとしていなかっただけ。

