本当は、少しだけ寂しい気がしたのも否めない。
あの日、確かにマリアさんは僕に会いに来て、僕と一緒に一日を過ごした。
その事実がなかったことにされてしまって、僕以外誰も知らないとなると……。
本当にそんなことがあったのかと……いつか時が過ぎれば、夢でも見たんじゃないかと思いだすような気もして、少しだけ、不安になる。
それほどに非現実的な。
平凡な日常とはおよそかけ離れた一日と、出会いだったのだ。
けれど、マリアさんはいたんだ。
そして、あの日があったからこそ、僕は今、ここにこうして生きている――
「……心配してくれたんですよね……ありがとうございます」
怒ったような横顔にむかい素直にお礼を言うと、発進しようとしていた車が、ガクン、と少し不審な動きを見せた。
「ちょ……何珍しいこと言ってんの? 調子狂うったら……」
ギアを入れなおしながら、小百合さんは眉をしかめる。
でも、その頬が少し赤く染まってるのを僕は見逃さなかった。
ふふ、と自然に笑みがうかぶ。

