黒い羽根


 顔を上げると、花屋の名前が入った軽ワゴン車が目に入る。

「小百合さん?」

 運転席の窓を開けて、道をはさんだ反対車線に止めた車から、

「智彦君! 乗って」

 小百合さんが手招きする。

 今日退院だと知らせてはなかったのに……なんで?

 そう首を傾げながら招かれるまま反対車線へと渡ろうとすると、



 ブブーッ!! 



 今度は横から神経質なクラクション音。

「うわ……とと」

 慌てて踏み出しかけた足を引く僕の目の前を、スレスレで車が通り過ぎた。

「ちょっと! 何ボーっとしてんの!?」

 青ざめた顔で小百合さんが叫んでいる。

「あはは……すみません」

 今まで無頓着でいた習慣が抜けきれてない……自分でもしまったと思いながら、今度は車が来てないか左右を確認して道路を渡る。