始発とともに

「何が?」

「だって、笑いながら『ありがとうございます』って言っただけで、あの人あんなに嬉しそうにしてたから。」

秋の妙に楽しそうな声に、北斗は思わずため息をついた。

「何?
ため息なんかついて…」

「やっぱり秋は重症だよ。」

「なによ…」

「人は鏡だよ。
笑えば笑うし、怒れば怒る、そういうもんだよ。
…帰ったら、笑顔で『ただいま』って言ってみな?」

北斗が言うと、秋は北斗にぎゅっと抱きついた。

「…それで大丈夫かな?」

少しだけ肌寒い風を浴びながら、北斗は優しく微笑んだ。

「大丈夫。
俺が保証する。」

「…うん。」

辺りをオレンジ色に染める夕日が、少しだけ濃くなっていた。