最上階に着き、玄関に向かった。

足取りは不思議と軽かった。

勇気を振り絞って来たのに、今は勇気なんていらないと思えた。

どんな人でも母親だし、どんなに憎んでも血縁は変わらない。

だったら私はそれを受け入れるしかない。

分かっていた事だったのに、今気がついた。

それは北斗を好きだと自覚したときのように、妙にすっと心の中に馴染んでいた。

ノブに手をかけて、ゆっくりと扉を開いた。

「…秋…」

玄関には今にも泣き出しそうな母親が立っていた。

目を伏せて、ゆっくり深呼吸をした。

「…ただいま。」

微笑みを浮かべると、ゆっくり涙が頬を伝った。

扉がゆっくり閉まった。

大丈夫。

次に扉が開くときは、きっと清々しい空気に包まれるはずだから。

大丈夫。

帰る場所は、私を待っていてくれるから。