自分が知っている母親は、あんなにか弱い声を出す人だっただろうか。

いつも綺麗に着飾って、男に媚びるために産まれてきたような容姿で、それを化粧でさらに華美にして、それで絶対的と思わせる様な声を持っていた。

なのに、今のあの人はどうしたのか、あんなに弱った声を出していた。

自分が恐れ憎んでいた実家と言う存在が、今では崩れかかった砂の城の様に感じる。

牢屋だと、監獄だと思っていたから、憎み続けていた。

それなのに、これでは憎み続けていた自分が馬鹿みたいだ。

エレベーターに乗り込んで、最上階に向かう。

モヤモヤした気持ちは、自分でも整理できない。

北斗の微笑みが頭に浮かんだ。

『大丈夫だ。』

鮮明に蘇る北斗の声、北斗の体温、北斗の微笑み。

「…そっか、私北斗の事…」

好きだった。

出会った時からずっと。

私は北斗の事が好きだった。

そう思ったら、自然と気持ちが穏やかになった。