始発とともに

見慣れた駅。

見慣れた街。

通い慣れた道。

ゆっくりと歩いた。

自分を知っている人に会わないように、気づかれないように。

少しうつむきながら歩いた。

どんな道を通ったとしてもあの家へ続く道は忘れていなかった。

塔のようにそびえたつマンション。

そこの最上階が育った家だった。

見上げながら、心を落ち着けた。

大丈夫、大丈夫。

呪文のように心の中で唱えた。

エントランスに入り、オートロックの前で立ち止まった。

二度と戻ることは無いと思っていたから、鍵は持っていない。

ゆっくりと部屋の番号を押した。

少しの沈黙。

『…秋…?』

機械越しに聞こえてきた母親の声は、驚くくらいか細い声だった。

「あの…」

『早くいらっしゃい…』

そう言って声は途切れ、オートロックが解除された。