始発とともに

どうやって一人で暮らしてきたのだろうと思うくらい、老人には生活力がなかった。

ほとんど使われていない台所。

ほこりが貯まったままの空き部屋。

普段歩いている場所がわかりやすいくらいの廊下。

気が付くと、掃除を始めていた。

あの日以来、全てがどうでもよくなっていたのに、何故か気になって仕方がなかった。

ある意味無心で働き続けた。

老人はなにも言わない。

自分も何も話さない。

だからこそ頭の中が空になった。

止まっていた時が静かに動き始めていた。

しばらくの間と思っていたのが一週間が経ち、一ヶ月が経ち、半年が経った。

村の人とも親しくなり、色んな支え合いの中でこの村が出来ていることを知った。

その輪に加わると、妙に心が穏やかになる自分がいた。

トゲトゲだった心が、ぼんやりとした丸になっていくのを感じていた。

この心地よさに、自分の身を預ける事にした。



…ーーーーー…