月明かりに照らされた秋の顔は、今まで見たことがないくらい穏やかで優しかった。

「ありがとう…」

そうしてそれ以上は何も言えずに、二人は月明かりに照らされたお互いの姿を見ていた。

疼きだした左腕の痛みが妙に心地よくて、生きている実感を北斗に与えていた。

二度の怪我は、心のどこかで『自分はどうなっても良い』と思っていたから起きた事故だったような気がしていた。

避けようと思えば避けられたし、守るにしても別の方法があった。

それでも自分の身を犠牲にするのを選んだのは、どこかで自分の事を諦めていたからかもしれない。

文化祭を楽しみにしていたこと、ちゃんとやる気があったこと。

それが皆に伝わっていなかったのも、自分がちゃんと表現していなかったからだろう。

だから、一人だなんて勝手に思って、勝手に自分を犠牲にしていたのだ。

そうする事で悲しむ人が居るのに、それに気づいていなかった。

秋がそっと北斗の手を握って微笑んだ。

北斗はその手を握り返しながら、改めて秋を見つめた。

月だけが、二人を見ていた。