「…村に行くんだって?」

少女の目の前に座って、声をかけた。

「…そうだけど?」

本から視線をはずさないまま答えが返ってきた。

「一緒に行ってあげなさいって、駅員さんが…」

戸惑うように言うと、少女は本を閉じた。

「そう…
じゃあ行きましょう。」

本を鞄にしまって、立ち上がった。

歩き出した少女を追いかけるように駅を出た。

村に向かう一本道を無言で歩いていく。

少女の引いているスーツケースの音だけが妙に響く。

「あなた、家出?」

「えっ?」

少女が立ち止まり、ゆっくり振り返った。

長い漆黒の髪が、風に揺れて輝いた。

「図星?」

少女がクスリと笑った気がした。

「…そういうあんたも、田舎に遊びに来たって感じじゃないけど?」

少しだけムッとして言い返した。