Moon【短編】






『満腹、満腹』


無邪気な笑顔でお腹をさする彼。


こういうところ、変わってないな。


なんて少し嬉しく思ったり。


『ん、にんじん食わねぇの?』


さすが、響さん。


…気づかないと思ったのに、



「響さんの幻覚では」


『いや、にんじんですね』


「いや、違いますね」


『そうーですかっ、て』


「・・・・むっ」



口の中ににんじんの味が広がる。



く、くそう。


油断してた…!



『おーとっ!手が滑った。悪い悪い』



なんて言いながら

悪戯っ子のように大口をあけて笑う響。



「ッ……アホ、響なんて嫌い」



『悪い、悪かったって!…ごめんな?』



首をかしげながら私の顔を覗き込み。



嗚呼、もう。



許さないわけにはいかなくなっちゃったじゃないか。



君は、なんてずるいのだろうか。