彼は頷き椅子に座った。
 私、ママ、麗太君、全部で合わせて三つの椅子。
 麗太君が座っている椅子は、かつてパパが座っていた物だ。
 この家に、確かにパパがいたという証拠が、麗太君という存在によって埋められていく。
 ママを事故で亡くしてしまい、更には声まで失ってしまった麗太君。
 不幸で、可哀想な子。
 彼を見る度に、そう思う。
 しかし、私のパパの存在と摩り替わる様にして、今ここにいる麗太君。
 いつまで続くか分からない同居生活を共にする同居人としては、あまり好きになれなかった。

 テレビを点けると、ドラえもんがやっていた。
 私は、この番組を毎週見ている。
 ママには「もう、五年生なんだから」と、よく茶化されるていたけれど、最近ではそれもなくなった。
 ママ自身も、私と一緒に毎週見ているから、それが決まりになっているのだろう。
 小皿に野菜炒めを盛り、テレビを見ながらご飯を食べる。
 いつもと同じ光景。
 ただ、ママの隣に麗太君がいなければ。
 なんとなく、麗太君が気になってしまう。
 もう小学五年生だというのに、ポケモンなんて見てる私を、内心では嘲笑しているのかもしれない。
 喋る事が出来ないから、その事を伝えようとしないだけ。
 勝手な想像をしただけで、勝手に頬が熱くなる。