「香奈、顔が赤いぞ?」
「え?!」
 ああ、まただ。
 こんな事を考えただけで、頬が火照ってしまう。
 その度に思う。
 きっと、私には誰かと付き合ったりする事なんて到底、無理な事なんだろうなって。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと熱くなっちゃっただけだから」
 頬に自分の手の甲を添える。
 ちょっとだけど、冷たくて気持ちが良い。
 こんな時、男の子が何とかしてくれるものだけど、きっと皓は私に触りすらしない。
 私達に対して、変に気を使ってしまう事があるから。
「香奈!」
「え?!」
 突然、私の名前を発したと思うと、皓は私を抱き寄せていた。
「え?! ちょっ、何で?! え?!」
 気が動転してしまって、まともに言葉が出せない。
 どうして?
 なんで、いきなり私を抱き締めたりしたの?
 今までで、こんな事をされたのは初めてだ。
 耳元で、皓が小さく囁く。
「公園の外、ベンチの背もたれの向こう。赤いコートの変な女が歩いてる」
「え?」
 抱き寄せられた状態で、ベンチの背もたれ越しを除く。
 足の半分以上まで覆う赤いコート、顔を覆うサングラスとマスク、長く伸ばした真っ黒な長髪、赤いハイヒールのコツコツという足音。
 きっと、あれが口裂け女だ。
 周りには近所の人も通行人もいない。
 道に口裂け女が一人。
 そんな光景が、より彼女の不気味さを強調している。
「香奈、ここで待ってろ」
 皓は抱き締めていた私を突き放し、公園の外へ駆け出した。
「ちょっと! 危ないよ!」
 口裂け女が皓と私の存在に気付く。
 彼女の恐ろしい眼光が私達を睨む。
 それでも皓は、口裂け女に向かって全力で疾走する。
「おい、コラ! そこのお前‼」