喧嘩っ早くて、口より先に手が出る博美は、学校では浮いた存在だった。
 一緒に遊ぶ相手もいなければ勿論、誰も相手にしてくれない。
 そんな博美を、駄菓子屋のお婆ちゃんは嫌な顔一つせず面倒を見ていた。
 博美にとって、店に来る客、つまりお婆ちゃん以外の人間全てが自分にとっては邪魔な存在だった様で、私達が駄菓子屋に来る度に、彼女は嫌な顔をしていた。
 でも色々あって、結局は博美が皓に懐いて、しだいに私達と打ち解けていったんだっけ。
 夏休みには皆でお祭りに行って、遠くへ出掛けて。
 あの頃は本当に楽しかった。
 しかし高校二年生の後半になると、私達の関係はしだいに軋み始める。
 私は皓と二人でいる事が多くなり、博美を含めていつものメンバーで集まる事は少なくなっていった。
 あの時の私は、誰よりも皓を特別に思っていた。
 楓や啓太郎や博美よりも……何よりも……。
 私は楓達に内緒で、皓の家に二人で泊まり、ついに彼と肉体関係を持ってしまった。
 何もかもが衝動的な出来事で、悪い様には感じなかった。
 楓達も誰も知らない、私と皓の二人だけの関係。
 ただ、皓に触れていてもらえる、私が皓に触れている。
 それだけで嬉しかった。

 自分のお腹に赤ちゃんがいると分かったのは、私が皓と関係を持ってから、数週間後の事だった。

 不安ばかりが込み上げて、死んでしまいたいとすら思った。
 こんな事、皓以外の誰かに言える筈がない。
 だから真っ先に、この事を皓に伝えた。
 皓はあまりにも辛そうな顔をして「ごめん……ごめんなさい」と、泣きながら私に謝り続けていた。
 もしかしたら私達は、こんな結末を望んでいたのかもしれない。
 二人だけの関係から生まれた、お腹の中の存在。
 それは私と皓しか知らない、私達の赤ちゃんだ。
 二人でこれからの事を考えて出した結論は、互いの親や楓達、誰にも見つからないどこか遠くの街へ行く事。
 私達は平日の始発の電車に乗り、自分達の街を離れた。
 親にも、友人にも、誰にも別れを告げずに……。

  =^_^=

 カウンターに戻った時、博美はグラスを片手に突っ伏していた。
「飲んで泣いて、さんざん愚痴をこぼして寝ちゃったよ」
 啓太郎は洗ったグラスを拭きながら、微笑している。