もう、最悪。
 暫くして、ママが私の部屋に来た。
「麗太君、部屋の準備ができたわよ。いらっしゃい」
 ママが麗太君を部屋から連れ出す。
 私も、その後に付いて行った。
 
麗太君が案内された部屋。
 それは二階の一番奥の部屋で、かつてパパが使っていた書斎だった。
 私のパパは仕事の都合で、今は海外に単身赴任中だ。
 だから今、この部屋は誰も使っていない。
 壁際に、ぎっしりと難しい本が詰まった棚が一つ。
 窓際に置かれた殺風景な机と、その隣に位置する一段ベット。
 これらは全て、かつてパパが使っていた物だ。
「この部屋は好きに使ってくれて構わないからね。棚の本も読んで良いし」
 麗太君は頷き、一段ベットの上に弾みを確かめる様に座った。
 そんな光景を見たママは、安心した様に部屋を出てしまう。
 一段ベットに座る麗太君をそのままにして、私も部屋を出た。
「ママ、どうして麗太君の部屋をパパの書斎に選んだの? まだ空いてる部屋が一つあるでしょ?」
 ママが私の方を向く。
「あれで良いのよ。あの部屋に誰かがいてくれる。あの部屋から物音がする。それだけで、パパがいた時の事を思い出せるの」
 パパが単身赴任をして、まだ一年も経っていないというのに、どうしてママは、こんな事を言うのだろう。
 これでは、まるでパパがもう帰って来ないみたいじゃないか。