「可愛い!」
 興奮している私の声を聞き付け、座敷の前で話していたママ達が来た。
「なんだマル、また来たのかい」
 お婆ちゃんは上の棚に置いてあった猫の餌の入った皿を取り出して、床に置いた。
 皿に盛られた餌を、猫は尻尾をゆっくり振りながら食べ始めた。
 ご機嫌なのだろうか。
「マルって?」
「太くて丸いからマル。こいつの名前さ。ずっと前から、勝手に入って来るのが習慣になっちまったのさ」
「ずっと前?」
「私が高校生の時からよ」
 ママは屈んで、ゆっくりと猫の頭を撫でる。
「ママが?」
「そうよ。さすがに、同じ猫ではないと思うけど。そうねぇ、もしかしたら、今ここに来てるマルは、私が高校生の時のマルの子供かもしれないわね」
 マルには飼い主が付けてくれる鈴がない。
 おそらく野良だ。
 そういえば、入り口の硝子戸は閉まっていたのに、どこから入って来たのだろうか。
 ふと、上の方に位置する開いた窓から、外の光が差し込んでいる事に気付いた。
 なるほど、あそこから入って来たのか。
「お婆ちゃん、あの窓」
「あれは、マルが好きな時に入って来れる様にする為の物さ。マルも親子揃って大事なお客さんだからね」
 マルも、私達と同じだ。
 親から子へ、自分の好きな場所や物は伝えられていく。
 ママもこの場所が好きで、私達をここに呼んだのだろう。
 勿論、私もこの場所が好きになった。
 だから今度は、マミちゃんにも教えてあげよう。
 ママや麗太君、藤原先生も、皆でここに集まればきっと楽しいから。