とりあえず部屋に戻ろう。
 でも、私が部屋に戻って麗太君とお話するにしても、彼が喋れないのでは、どうしようもない。
 ふと、電話の隣に置いてある、メモ用紙の束とシャーペンが視界に入った。
「ねえ、このメモ用紙とシャーペンなんだけど、貰って良い?」
 ママは私の考えを理解してくれたのか
「頑張ってね」
 とだけ言って笑い掛けた。

 部屋に戻り、麗太君に一本のシャーペンとメモ用紙の束を差し出した。
「これを使って。言いたい事が伝わらないと、不便だから」
 麗太君は、私が差し出したそれを横目で見たかと思うと、勢いよく左手で振り払った。
 メモ用紙の束を挟んでいたピンが外れ、部屋中にメモ用紙が散らばる。
 一緒に払われたシャーペンは壁に強くぶつかり、欠けてしまった。
「ちょっと、何て事するの!?」
 散らばったメモ用紙を、そのままにしておく訳にもいかず、仕方なしにそれを拾う。
 腰を屈めてメモ用紙を拾う私を、麗太君は表情を変えずに見つめていた。
 どうして、こんな事をしたのか。
 しっかりと、その事を訊かなければならないと思った。
 しかし、訊く事が出来なかった。
 彼の表情が、あまりにも悲しげで、それでいて辛そうに見えたから。

 私は一段ベットの上で雑誌を読み、麗太君はクッションの上でずっと俯いている。
 どうして自分の家で、こんな嫌な想いをしなきゃいけないんだろう。