「優子、なんか近いんだけど」
「え? そうかな……別に近寄ってたつもりはないんだけど……」
 嘘だ。
 本当は怖くて、先程からマミちゃんの方へ無意識のうちに寄っていた。
「出て来るわけないよね……口裂け女なんて……」
「まさか……住宅街なんだから怪しい人がいればすぐに目に付く筈……」
 言葉が止まる。
「え、何? どうしたの?」
「……あれ」
 マミちゃんは人差し指で前方を指差した。
 前方の道の隅に建っている電柱。
 その隣に誰かが立っている。
 真っ赤なコートを着込み真っ赤なハイヒールを履き、顔にはサングラスとマスク、長く伸ばした髪を腰より下まで垂らしている。
 口裂け女だ!
 間違いない!
 そう確信した。
 マミちゃんは酷く震えた手で、私の手を握る。
 目の前にいる見た事もない異形の存在、それを前に、私も怖くて動く事が出来ない。
 マミちゃんは私に問う。
「あれ、口裂け女?」