それでね、隣のクラスの子が、その女の人に話し掛けられたの。
「早くお家に帰りなさい。さもないと食べちゃうわよ」って。
 女の人にしては凄く怖そうな低い声で……。
 怖くなって逃げ出したんだけど、追い掛けては来なかったらしいよ。
 ママにこの話をしたらね、この街では十何年か前にも同じ様な人がその時間に住宅街とか公園をうろついてたんだって。
 これって、巷で言う口裂け女って奴だと思うんだ。

 口裂け女。
 その呼び名が出た瞬間、私はマミちゃんの手を咄嗟に握った。
 マスク越しの耳まで裂けた痛々しい口、サングラスの下の血走った目、不気味な程に真っ赤な服。
 話を聞き想像した口裂け女は、あまりにも恐ろしい。
「マミちゃん……帰りは……一緒だよね?」
 たぶん、私は震えていると思う。
 自分の住んでいる街に、そんな異質な存在がいるなんて事を考えたら、背筋が寒くなって来る。
「う、うん。勿論、帰る時は一緒に……」
 どうやらマミちゃんも私と一緒で、怖がっていた様だ。
「まったく、二人とも怖がりだなぁ」
 由美ちゃんは相も変わらず、私達を見てニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。