立ち上がろうとした瞬間。
「いい加減にしろよ」
 男の子の怒り気味の声と、椅子を強く退かして立ち上がる音が聞こえた。
 私は数センチだけ浮かしたお尻を、再び椅子に落ち着かせる。
 声のした方を振り返ると、そこにはまるで中学生の様な容姿をした男の子がいた。
 男の子にしては少しだけ長い髪、高い背丈。
 たしか、光原綾瀬君だったかな。
 成績優秀でスポーツ万能な優等生。
 おまけに顔立ちも良いから女の子にモテモテ。
 男女問わず皆の人気者。
 そんな少女漫画のヒーロー的な存在、光原綾瀬君の事は、友達の話題によく出て来るので、なんとなく知っていた。
 同じクラスになったのは、今年が初めてだ。
 光原君が席を立ったからだろう。
 皆が彼に注目している。
「麗太の何が分かるっていうんだよ? 何も知らない癖に、麗太の事を勝手にどうこう言うのは気に入らないな」
 皆が光原君を見る目、それは男女問わず正義の味方でも見ているかの様な、期待に満ち溢れた眼差しだった。
 先生は光原君を止めようともせず、その光景をただ見ている。