彼の名前を呼んで振り返ったが、そこに麗太君はいなかった。
「あれ?」
「どうしたの?」
「あの……私……」
 麗太君が、ここにいた筈。
 そう言おうと思った。
「……なんでもないです」
 しかし言えなかった。
 なんとなく、男の子と登校したという事実を、誰かに知られるのが嫌だったのだ。

 麗太君、どこに行ったんだろう。
 彼の事を心配しているうちに、朝の会は終了した。

 始業式は一時間目に始まる。
 皆が移動しようと廊下に出る最中、麗太君はこっそりと教室に入って来た。
 教室に入って来た麗太君に出くわした先生は、何かを察したように自分の自己紹介だけをして、彼を廊下に誘導した。
 おそらく先生は、麗太君の事情を考えた上で、あの対応をしたのだろう。
 今年の担任の先生は、なかなか親しみのある人の様だ。